「D坂の殺人事件」(江戸川乱歩)

明智のデビュー作に谷崎の作品が登場していた

「D坂の殺人事件」(江戸川乱歩)
(「江戸川乱歩傑作選」)新潮文庫

「私」はD坂にあるカフェの窓から、
向かいの古書店の異変に気付く。
「私」は同席していた
妙な男・明智とともに
古書店を探ると、
そこには店主の妻の絞殺体が…。
「私」は独自の調査の結果、明智が
その犯人であることを確信する…。

今月11月の日曜日は、
乱歩の初期作品「二癈人」「二銭銅貨」等を
取り上げました。
次に取り上げるべきは
本作「D坂の殺人事件」でしょう。
何しろ名探偵・明智小五郎のデビュー作。
それも書生としての
ヤング明智小五郎なのですから
(探偵デビューはその直後の「心理試験」)。

何と明智の小説初登場は
殺人事件の容疑者としてなのです。
「私」は明智の下宿へ行き、
彼に尋問するのですが、…。
「私」はそのあとの展開で、
明智にこてんぱんにやられます。
もちろん腕力ではなく、
推理力と調査力で。
明智小五郎はそのデビューから
スーパー名探偵として
描かれていたのです。

本作品も、探偵小説の
黎明期に書かれただけあって、
現代のミステリー愛読者にとっては
満足できそうにない代物です。
読み手が探偵と一緒になって
推理する部分がほとんどなく、
トリックもことのほか
稚拙と言わざるを得ません。
「二癈人」や「二銭銅貨」同様、
心理を解き明かしていくだけなのです。

ここで注目したいのは、
作品中に谷崎潤一郎
初期の犯罪小説「途上」
登場することなのです。
「絶対に発見されない犯罪というのは
 不可能でしょうか。
 僕は随分可能性が
 あると思うのですがね。
 例えば、
 谷崎潤一郎の「途上」ですね。
 ああした犯罪は
 先ず発見されることはありませんよ。」

乱歩が谷崎を相当意識していたことは
間違いないでしょう。

谷崎は探偵小説を「途上」以上に
進化させることはせず、
新しい文学の可能性を
次々に開拓していきました。
一方、
探偵小説を極限まで追求したのが
乱歩だったのです。
谷崎も乱歩も執筆期間が長期にわたり、
多くの作品を残しました。
しかし、出発段階は相当な相似が
あったにもかかわらず、
両者の創作傾向には
大きな違いが生じたのです。
それゆえ、
私たちは谷崎独特の耽美な作品世界と、
乱歩の異様な猟奇的探偵小説を、
それぞれ愉しむことができるという
恩恵を与えられたのです。

子ども時代に
ポプラ社の少年探偵シリーズ
全46巻にはまった、
私と同世代の男性にお薦めします。
おそらくとうの昔に
読んでいるのでしょうが。

(2018.11.25)

【青空文庫】
「D坂の殺人事件」(江戸川乱歩)

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